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南海ホークスの監督だった鶴岡一人が言った「グランドには銭が落ちている」をもじって言えば、「パソコンには銭が詰まっている」のである。 経済学の父といわれるAに全集(全七巻)がある。
私も、オックスフォード版を買った一人だ。 ただし、スミスは多作の人ではなく、全集の内の『諸国民の富』(二巻)と『道徳感情理論』(一巻)が、文字通りの主著であった。

スミスは生涯、『諸国民の富』の改版(バージョンアップ)に努力した。 一作を一生涯改良に改良を重ねて進化させていく人を「一巻の人」と言うなら、スミスは、まさにそのような人の典型であった。
作品が進化するT、1916年広島県呉市生。 39年に南海入団、新人で本塁打王となる。
戦後は南海の監督として23年間つとめ、リーグ優勝11回、日本シリーズ優勝2回。 65年に野球殿堂入り。
スミスと比較するのはまことに恥ずかしいことだが、私はこの二○年間に合わせて五○冊以上の本を書いてきた。 仕事を量で計る人間は、哲学屋の世界ではクズ同然と見なされた。
(ただし、哲学屋には多作者が多い。 )生涯に、主著を一冊書いたらいいのだ。

いや、書かないほうが、もっといい。 フッーの哲学者が、主著をもつなどということは、プラトンやアリストテレスに向かって、唾を吐くような行為なのだから。
実際、若いときに面と向かって、先生たちからそう言われたことがある。 私は、書き直すのなら、バージョンアップをするのなら、同じ主題を違ったスタイルで書いたほうがいいと考えてきた。
それに一つのテーマを、生涯にわたって追うとアリストテレス前384年〜前322年。 古代ギリシャの哲学者。
プラトンがイデアを超越的実在と説くのに対して、現実在に形相として内在するものとした。 代表的著書として「形而上学」がある。
さまざまなテーマをさまざまなスタイルで追求するほうが、哲学屋にふさわしいと考えてきた。 実践してきた。
哲学は、どんなものでも思考の対象にする。 したがって森羅万象に好奇心を持って接し、雑学の極をいくのが哲学者固有のスタイルであると心に決めてきたからである。
しかし、メインテーマをもち、それをどんどん進化させていくのを否定したいわけではない。 それは貴重なことだが、私の流儀ではないということだ。

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